『悪意の手記』中村文則

紹介

主人公は、大病を治癒するまでの過程で精神を闇に飲み込まれてしまう。彼の内面に抱える憎悪は、彼を人道から背かせてしまう。

自分の罪を意識して生きる彼の視点を通して、人の持つ光、闇。衝動による爆発。そして命について考えさせられた作品。

 

 

感想

難しい内容だった。物語自体すらすら読めたのだが、作者が提示した、社会に身を置く人間の抱える課題がいくつも迫ってきて、自分の考えを意識しながらページを進めていくことになった。読み終えて数日が経つ今日も、考えずにはいられない。

殺人を犯した彼は幸せになっていいのか。殺人はどうして許されない行為なのだろうか。といった疑問を抱いた。そして、そのことについて深く考えた。正直、答えは導き出せていない。が、ある程度その疑問への考えの基盤は築けたと思う。

今一度、命とは何か、人間という存在はどういう存在なのか。といった存在の根源について考えさせられた作品だった。

 

 

ストーリー(自分用)

大病を患い、死の道を歩む少年は、世界のあらゆるものを憎悪する。そして、彼は死の恐怖から逃避するために死を肯定する。病状の進行とともにおかしくなる精神、次第に彼の眼前に広がる世界は、今までとは違ったものになった。死を覚悟していた彼だったが、奇跡的に病気を治し、以前の生活へと戻ることになる。しかし、ありとあらゆる人が頭から紙袋を被っているため、表情が把握できず、人との関りがうまくいかなくなるのであった。ある日、そんな毎日にけじめをつけようと、自殺をしようと公園へ行くと、親友Kがその公園にいた。そのとき、主人公の奥底に眠る、世界のあらゆるものを憎悪した闇が突如、彼を包み込み、Kを殺害してしまう。(このKを殺害した事件を警察は自殺と処理した。)彼はこの、Kが死んだという衝撃を生きる糧にするのだった。

彼の生活はその後も悲惨なものだった。大学という手段を使い、Kから逃げるように故郷から離れる。その大学で武彦と出会い、一緒に悪事を働く。彼との出会いは主人公を良くも悪くも社会に馴染ませた。そして、彼は一つの選択をする、自分が死ぬその時まで、殺したKを振り返りながら生きる。というものだ。祥子の「自分というものを抱えて、最後まで生きる勇気を持つ」という言葉に影響されたこともあるだろう。が、しかし、彼の前に病院で一緒になった男の子が幻となって出現し、彼の内面の深いところを否応なくえぐっていくのだった。

彼は大学を中退し、バイトをして生計を立てるようになった。バイト先の女性、リツコとの出会いによって彼の生活は一変する。彼は、最愛なる娘を奪った少年に復讐心を抱いており、殺意をも抱いているリツコに自身の過去(Kを殺したこと)を明かす。そして彼らは闇に潜むネズミのごとく過ごすのであった。復讐の計画をたて、それを実行する。その行動によって彼らの心に変化し、復讐が終わったのち、彼らはお互いの生活を歩んでいくのだった。