脱げない服

 私は誰かに、「この服を着よ。」と命じられた。その命令は絶対で、「嫌だ。」とは言えなかった。いや、私は嫌だという感情すら持っていなかったかもしれない。命令に従うことだけが、出来ることだった。

 誰かが選んだその服は、似合わないように思えた。だが、選ぶ自由は無かった。着るしかなかった。

 私は用意された服を着る。途端、服が私に取り憑いたようだった。服が私になってしまった奇妙な心地がし、強烈な抵抗を抱いた。どうにかして服を脱ごうとする。だのに、脱ぎ方がわからない。服が私なのだ。

 脱ぐことが絶望的だと悟り、私は酷く落胆した。そして、私は鏡に映る自分を見ようとする。だが、暗闇のためにどんな姿の私が映っているのか、よく見えない。微かな明かりを頼りに、ゆっくりと鏡へ近付く。

 そこで私が見たものは、裸の私だった。わけがわからなくなり、呆然としていたとき、耳をつんざく電子音が鳴り始め、私は夢から醒める。

 夢で私に命令した人物は一体、誰だったのだろう。あの人の言う事は絶対だった。

 ラプラスの悪魔だろうか。世界の現象全てを超越し、把握している不可侵で絶対的な存在。

 私は、夢の中でその存在の声を聞いたのかもしれない。