『渡りの一日』/梨木香歩

西の魔女の孫で、決めたことは必ずやり通すまいと、マイペースで、人を慮るのが少し上手ではないショウコとが過ごしたある一日のお話。ショウコが壊していくプランに翻弄されながら、最終的に一枚の絵画へたどり着く。まいはその絵を見たとき、その絵が表現している「確信に満ちた一途さ」に心打たれる。

 

もともと企てていたプランを壊し、ショウコはマイペースにまいを連れまわす。そんなショウコにまいは少し嫌気がさし、冷たい態度を取ったりするがショウコは鈍感で、まいに話しかけたりする。そして、ショウコの反応にまいが吹き出し、空気が和む。その後、ショウコの本音を聞き、まいはあきれていろいろと吹っ切れる。仲が良く、腹の内を話すことが出来る二人だからこそ、こんな風な関わりができるのかな。なんて思ったりする。

作中で藤沢という兄弟が登場する。その二人の勘違いがこの話にユーモラスを添えている。だが、お兄ちゃんの勘違いの度合いは甚だしく、うーんと唸りたくなるようなものだった。

ダンプカーを運転するあやさんの姿、言葉はショウコ、まい、そして作品を読む僕に、その人らしい「生き方」を実践することの楽しさを教えてくれた。あやさんの「私、やりたいことは全部トライする主義なの」という言葉に表れるように、彼女は、自分のしたいことに忠実であるのだろうな。と思った。

 

正直な感想を言えばあまり面白くなかった。まいがサシバの群れの絵に運命的に出会い、その絵がまいにとって印象的なものになったのは文を読めばわかるのだが、読者には伝わりにくいものだったと思う。サシバの渡りに最初しかフォーカスしていないのと、途中登場する藤沢のインパクトが強すぎて、ほかの内容が希薄に感じられてしまう。せっかくのあやさんもそこまで強調されてないため、いい言葉を言っているのだが、いまいち物足りなさを感じてしまった。あやさんが自分の信念(やりたいことはトライする主義)を貫く上での困難を少し書いたうえで、それでも私はこう生きるのといったように強調すれば、よりあやさんの言葉は染み入るものになったことだろう。

もしかしたら作者は、藤沢兄弟以外のキャラクターの印象を希薄にし、その兄弟にスポットを当てるよう仕向けたのかもしれない。が、そう考えたら、その兄弟も言動も物足りない。伝えたいことはわかるのだが、学校の教科書のようなココ重要って感じが否めなかった。物語的には、なんか物足りないと感じた作品。