『薄明』/太宰治

とても気弱で、頼りのない主人公が妻と子供を連れ妻の故郷、甲府へ向かう。戦争下で苦しい生活を強いられ、家計に悩みあぐねる中、主人公は娘の結膜炎、そして自分という立ち振る舞いで頭がいっぱいいっぱいだった。娘の結膜炎が治り、目が開く。主人公は、娘に焼け跡を見せに行く。そして戦火の悲惨さを伝えるのだが、家が燃える様子などを直接見ていなかった娘は、ずっと微笑んでいた。

 

主人公の頼りなさが読者にも伝わるよう、敢えて平坦な言葉を使っていたり、唯一持ってきた腕時計がすぐ壊れてしまうという描写があった。

 「薄明」という題は、小さなことに悩みすぎてしまった主人公の目に映る世界が、夜の月明かりのような、ぼおっとしたものだったのを暗示していると僕は考える。