『饗応夫人』太宰治

「私、いや、と言えないの。」

客にぞんざいに扱われ、粉骨砕身の思いで饗応する夫人を、夫人の安息を願い、客との関わりをやめてほしいと思う女中の視点から描かれた作品。

 

夫人の断れない性格を逆手に取った大学の先生方の振る舞い、言動が腹立たしかった。横暴に対応する夫人は、対応、体の状態からどんどんと疲弊していくことがわかる。

女中の視点で描かれているため、女中の主観ではあるものの、夫人の悲惨さがひしひしと伝わってきて、読んでいてとても苦しくなった。

 

終盤、夫人は喀血する。そして、身の安息のために故郷へ帰る決断する。列車の切符も買い、帰郷の準備も済ませ、その夜出発しようと外へ出た。

外には待ち構えたかのごとく、夫人をぞんざいに扱う客が居、家に入ろうとしていた。

夫人は咄嗟に切符を破り、饗応に勤むのだった。

 

「私、いや、と言えないの。」この心持ちは、夫人の精神だけでなく身をも滅ぼしていく。